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コリン・パウエルと共に「大きな合意」を喪くす分断のアメリカ
執筆者:中山俊宏 2021年11月11日
https://www.fsight.jp/articles/-/48392
『パウエルは、大統領にことの難しさを伝えることはしても、決断そのものに対して反対はしなかった。大統領の決断に対して物申すべきではないという「グッド・ソルジャー」の体質が、理性的な判断を上回った』
『パウエル将軍は、どこまでいっても「グッド・ソルジャー」だった。それがあらゆる限界を突破したソルジャーの限界でもあった』

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『右翼と左翼』ということをしばしば考えている。支持政党とか政治思想的な意味合いではなく、事に当たる態度あるいは考え方だと思ってほしい。ここではとても大雑把に『右翼は現状是認、左翼は理念先行』ぐらいに捉えている。たとえば「社会はかくあるべし、だからこの制度は変えるべき」というのは左翼的で、「今の社会はここが良くないから改良するべき」というのは右翼的。この視点で言えば、現状よりも過去の方に理想を見出すのが極右であり、個人の解放を実現して無秩序に人類の個体群が生存している状態が極左と言えるかもしれない。

学術活動は左翼的だが、しかし学術界の住民は右翼的だ。

そんなことを考えていたところでコリン・パウエルの追悼文に出会った。パウエルさんの著書『リーダーを目指す人の心得』を読んで、バランスの取れた人だと感心したのだった。軍人ゆえのリアリズムと、黒人であること、あるいは黒人の代表的立場にあることを自覚した毅然とした態度。

軍隊は徹底した現状分析で今ココの状況打開を目指す。被害者を出してでも制圧するのか、被害者を最小化するために撤退するのか。現場の軍人にはギリギリの判断が要請される。しかし。その判断材料は提供できても、判断主体にはなれない。そして決断が下されれば、己の思想信条とは無関係に、それに従い遂行せねばならない。この辺り、徹底的に右翼的だ。一方で、黒人の地位向上、極論すれば人権の主張というのは、とても左翼的な行動だ。理念、理念、理念。

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日本において研究者の態度として良いとされていることの1つに、好奇心駆動での研究がある。己のうちなる情熱の赴くままに研究に取り組む。研究者に「好きなようにさせる」ことが、成果を最大化する最善手である、という主張も、これに近いのかもしれない。好奇心駆動研究を良いモノとする態度は、とても左翼的だ。アナーキー。

しかし日本の学術界は、そんな態度を支援する姿勢で運営されているかというと、かならずしもそうではない。審査と評価。相対的優劣。実践面ではそんなものが学術界を支配している。学術界の資金源が税金で、省庁に逆らうことが出来ないのが、そうした運営実態の原因だろう。つまり、学者個人の内側からの発露ではなく、現状の社会制度の枠組からの制約で運営している。とても右翼的だ。

冒頭の追悼文でコリン・パウエルに向けられた『グッド・ソルジャー』という評価は、まさにそのまま日本における『グッド・サイエンティスト』に繋がる。日本における学術界の諸問題を解決するには、社会構造そのものを変革しなければならない。多くの学者がそう考えている。しかし変革を本当に実現するほどの強度では行動しない。それは多くの学者が『グッド・サイエンティスト』だからだ。

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コリン・パウエルの『グッド・ソルジャー』たる姿は、コロナ禍における尾身茂の姿と重なる。(事実上)政府の中にあって、科学的な知見から意見を言う。ギリギリの線まで主張する。しかし最後の一線は政治判断に委ねる。決まったことには従い、その範囲内で最善手を探す。決して政府からは飛び出さない。『グッド・サイエンティスト』だった。

様々なコロナ禍ルポで「ここで政府とケンカしてしまって、その後は誰が事態を収拾するんだ」という主旨の尾身発言が採用されている。尾身さん自身には『グッド・サイエンティスト』であることについて、忸怩たる思いがあったはずだ。しかし感染症の流行という状況にあっては『グッド・サイエンティスト』であり続けるしかない。そこには尾身さんの葛藤がある。おそらくパウエルさんも、イラク戦争の状況下で、『グッド・ソルジャー』であることに葛藤があっただろう。

パウエルさんも尾身さんも、外形的には、右翼的にも左翼的にも見える。それは「現状の社会の中枢にあって」「最大速度で社会変革を進める」という右翼と左翼の分水嶺に立って、その位置で最大強度を発揮して行動していたからだろう。必須である社会変革のために、現状を是認して中枢に身を置く必要がある。妥協点としての中道ではない。最善手としての中道。

日本の多くの学者からは『グッド・サイエンティスト』であることへの葛藤を感じない。今の日本で学術に取り組むには(事実上)『グッド・サイエンティスト』であるしかない。しかし『グッド・サイエンティスト』であるということは、学者である良い態度ではない。妥協点としての中道。妥協的『グッド・サイエンティスト』。

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文科省国研にあってのJAMSTECとか、日本学術会議にあっての若手アカデミーとか、そういう準中枢的な組織こそ、いわゆる「ギリギリアウト」的なラインを攻めることで、社会を揺さぶる必要があると思っている(個人の意見です)。準中枢的な組織だからこそ、組織の行動指針や事業や構成員の多様性を大きく持って、その平均値が『グッド・サイエンティスト』的な態度を少し左側に超えたところにあるようなイメージ。とはいえワンシグマの範囲には『グッド・サイエンティスト』が入っている。その「ちょっと左にハミ出す」部分は、意外とみんなが見てみたい領域なんじゃないかな。

ボクのことを露悪的だと評する人が一定数いて、なんでそんなことを言われるのかと思っていた。でも何だかわかってきた。ボクは日本における『グッド・サイエンティスト』の分水嶺を、少し左に動かしたいんだ。その「ちょっと左側」にこそ、学者にとっても国家社会にとっても、明るい未来があると確信している。
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